2022年、ワーケーションのブームは落ち着いた...
2021年ワーケーション事情を振り返る
2021年はワーケーションがバズった年
今回は2021年のワーケーション事情を振り返ってみます。2021年はワーケーションという言葉がバズワードとなった年でした。多くのニュースやメディアでもワーケーションは取り上げられました。
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日経クロストレンドが2021年4月に発表した「トレンドマップ2021上半期」の中でも消費部門でキーワードの一つとしてワーケーションが選ばれています。
この記事は弊社運営ブログ、ヤツナビの記事を転載・加筆修正したものです。オリジナル記事(2021年12月27日)はこちらです。
ワーケーションの市場規模はどのくらい?
ではまずはワーケーションの市場規模を見てみましょう。こちらは2021年3月に矢野経済研究所が調査レポートを発表しています。これによると2021年の国内ワーケーション市場規模は777億円(予測)です。また市場は急速に成長し2025年には3622億円規模になると予測しています。
リンクは2022年9月発表の資料になっています。2021年3月発表から改まり、市場規模は2021年699億円(見込)、2022年845億円(予測)に修正されています。本記事ではヤツナビ公開時(2021年12月27日)の内容で記載しています。
このレポートは市場規模を「宿泊インパクト」、「地域インパクト」、「研修インパクト」、「国家予算」に分類しています。直接的な宿泊だけでなく、滞在中の飲食、日中活動などの地域経済への影響や研修・合宿活動に関する影響なども対象となっています。
ちなみに777億円という市場規模。2020年の音楽配信サービスの国内市場と同じくらいの規模です。一般社団法人日本レコード協会発表によると音楽配信サービスの市場規模は783億円とのことです。
ワーケーション経験人口は約200万人?
金額規模ではなくワーケーションを行っている人はどのくらいいるのでしょうか?こちらは2021年に発表された2つの調査から推定してみます。
山梨大学の調査では2.6%がワーケーション経験者
ひとつは株式会社クロス・マーケティングが山梨大学と実施した調査です。2021年3月に発表されています。調査対象は76,834人。テレワーク実施経験の有無、ワーケーション実施経験の有無をヒアリングしています。これによるとテレワーク経験率は39.6%(30,389人)。その中でワーケーション経験率が6.6%とのことです。つまり39.6% x 6.6% = 2.6%がワーケーション経験率と推定できます。
観光庁の調査では4.3%がワーケーション経験者
もうひとつは観光庁が実施した調査(2021年3月)です。調査対象は17,426人。テレワークやワーケーションの実施経験有無をヒアリングしたものです。こちらではワーケーション経験率が4.3%(756人)となっています。
調査によりバラツキはあるものの2~4%程度。真ん中を取って3%がワーケーション経験者と考えれば大きなズレはなさそうです。
2021年11月に総務省が発表した就業人口が6659万人。3%と試算すると約200万人がワーケーション経験者と推定できます。200万人とは長野県全人口と同じくらい。巨大な市場ではありますが、まだマジョリティとは言えません。
前述の2つの調査はいずれも興味深いものです。ワーケーション実施者の業務内容や興味点などが調査されています。ご興味のある方は是非参照してみてください。
ワーケーション関連スタートアップ企業も急成長
ワーケーション市場は約200万人、777億円と推定されます。2021年は多くの企業が参入してきました。特にスタートアップ企業がワーケーションに便利なサービスの提供を強化しています。これらのサービスは2021年以前より展開されていました。しかしコロナ禍でワーケーションが注目され、メディアにも取り上げられています。
これらは自社で関連施設を運営している企業もあります。一方、自社では設備を持たずホテル・旅館の平日需要を割安で提供するサービスもあります。これはコロナ禍で苦しんでいる観光業を助け、いずれも急成長を示しています。
多拠点生活を支えるサブスクリプションサービスが登場
ワーケーション実施者に人気のあるサブスクリプション型サービスはいくつかあります。代表的なものはADDress、HafH、LivingAnywhere Commons(LAC)などです。またサブスクリプションではありませんが、平日5連泊に限定してホテルを割安に提供するU-Bokuというサービスもあります。
この中でHafHの利用者が3.5万人を超えた、という発表がありました。(2021年12月)。ADDressも7000人を超えた、と発表しています。(2020年)。おそらく現在は1万人以上が利用しているものと推定できます。
これらはいずれも近年発足したスタートアップ企業です。クラウドファンディングなども活用し、人との繋がりやコミュニティ化を特徴としています。
ワーケーションはまだ就業人口の3%程度の市場がターゲット。熱いファン層、コミュニティ層があることが成長のドライバーとなっているのでしょう。この領域はまだまだ成長しそうです。
ワーケーションで社会問題解決を目指す企業も
スタートアップ企業には社会問題の解決をビジネスで目指しているところもあります。例えばADDressでは積極的に空き家をリノベーションした施設を運営しています。全国の空き家問題を解消するためです。また、運営にも現地の人を家守として採用も進めています。これは地域関係人口の創出も意識しているものです。
おてつたびという地域の課題を解決する旅を紹介するサービスも生まれています。2021年は、これらのスタートアップがビジネスとして利益を生み出しつつ、社会問題の解決を試みる、という新しい流れができてきた年とも言えるでしょう。
その他のワーケーションに関する2021年トレンド
スタートアップ企業の躍進以外にも2021年はワーケーションに関するトピックスが多い年でした。
自治体の積極的なワーケーション誘致も
ワーケーションは移住促進や関係人口増加の思惑から積極的な自治体も増えています。先の矢野経済研究所のレポートによると2020年、2021年のワーケーションは国家予算が市場規模の中でも大きな比率を占めています。地方創生や落ち込んだ観光需要の支援などは国家方針でもあるためです。
ワーケーション誘致に積極的な自治体は多くあります。その中で成功例としてよく紹介されるのが長野県、長崎県、和歌山県などです。
長野県はコロナ禍以前から「信州リゾートテレワーク」構想を打ち出しています。ワーケーションを行う場所としてアピールしている他、軽井沢町、茅野市、立科町など市町村単位でもワーケーションに取り組む団体や特徴的な設備が多く、成功している自治体といえるでしょう。
他にも長崎県や和歌山県なども成功自治体とされています。単なる企業誘致だけでなく関係人口を増やすなどの積極的な取り組みを行っています。リピーターとなるワーケーション客誘致を意識し、奏功しています。
一方で当然ながらすべての自治体の誘致活動が成功しているわけではありません。自治体や国の予算が付いたからといって、急遽ハコモノの整備や誘致イベントを行うだけで、リピーター獲得に繋がっていない例も多く見受けられます。
ワーケーションとアウトドアブームが緩くつながっている
ここ数年キャンプなどのアウトドアブームが続いています。そして特にコロナ禍になって更に高まっています。屋外で楽しむ。しかも家族や限定的な友人などコミュニティメンバーだけで。この2点が人気の理由と言えるでしょう。
アウトドアで楽しみながら、ワーケーションで働く。そんな需要を取り込もうとしている企業や施設も増えてきています。例えば貸別荘。家族だけで施設を利用できるためコロナ禍でも需要が伸びています。地方移住や二拠点生活としての別荘需要も高まっているのだそうです。2021年11月のITmediaビジネスの記事に貸別荘業界大手のセラヴィリゾート泉郷が掲載されています。
またグランピングなど、キャンプとワーケーションは相性が良い文脈です。ロッジ併設などの整備が充実しているキャンプ場がワーケーション客の誘致を行ったり、キャンピングカーで旅をしながら働いているブロガーなどの情報発信も出てきました
企業のワーケーションへの取り組みはまだ限定的
2021年時点ではワーケーションの経験者は就業人口の3%に留まっています。また実施者のプロファイルもノマドワークが可能なフリーランスや完全テレワークが可能なIT業界などが中心。あらゆる業種、職種に定着している状態とは言えません。
ワーケーションの拡大にはより多くの企業、業種での取り組みが重要です。しかし残念ながら必ずしもワーケーションはすべての企業で好意的に受け止められているわけではありません。株式会社月刊総務が2021年6月に発表した調査ではワーケーション導入を検討したことがない、と回答した企業が85.4%にものぼりました。
ワーケーション導入への不安は「公平性の担保」「仕事とプライベートの区別の曖昧さ」などが挙げられています。これらは在宅勤務や直行直帰などの環境でも本質的には同じ課題です。しかしワーケーションという言葉が余計に企業を不安視させているのかもしれません。
ワーケーション以前にテレワーク定着の課題も
そもそもワーケーションの実践にはテレワークが前提となります。しかし日本ではまだテレワークの定着が進んでいません。NTT東日本の記事によると、完全テレワーク(週1日も出勤せず)は3.6%しか実施されていません。テレワーク実施といっても多くの企業では部分的テレワークとなっています。
これはITツールの導入などのテクノロジーの問題だけでないでしょう。労務管理や人事評価など制度。「出勤してもテレワークしてもよい」制度となりつつも出勤を優遇する文化。様々な要素が絡み合っています。この問題は経営層や中間管理職層の意思によることが多いとされています。そのため定着する企業と避ける企業の二極化が進むと考えられます。
ワーケーションの本格普及はこれから
ワーケーション経験者は(2021年時点)約200万人。就業人口全体から見ればわずか約3%です。熱烈な3%層を狙うならば、リピーター作りが必要です。おそらく「ストーリーのある」土地が人気となるでしょう。ストーリーとは決して日本で唯一だったり日本で1番の何かである必要はありません。ひとりの面白い人。一軒の素敵な店。そういう、もう一度会いたい(訪れたい)というストーリーのある土地です。
今後もテレワーク普及が進めば、ワーケーション経験者は3%から広がります。より多くの就業者がワーケーションを試すことになるでしょう。この場合は最初の利用のハードルを下げることが重要です。ワーケーションに便利な施設。ワーケーションを実践しやい制度を整えた企業。これらの課題解決が必要になってくるでしょう。
ワーケーションへ一時的には反動も
ブームは「過度な期待のピーク」のあと「幻滅期」を経て定着します。ワーケーションはまだ最初のブームの段階です。今後必ず過度な期待への反動が訪れます。ワーケーションの本格的な普及はまだこれからと考えるべきでしょう。そのときにはワーケーションという呼び名ではなくなっているかもしれません。名前に踊らされず、当たり前に働く場所を自由に選べる時代が早く来てほしいものです。
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